「竜馬がゆく」司馬遼太郎著
今さら僕がこの作品を読んでみようと思ったきっかけは、
「古今東西の名作と言われる作品は生きてる間に一度読んでおこう」
という企画が自分の中で持ち上がったからです。
歴史の教科書的に言えば、坂本竜馬の最大の功績は
薩長同盟を成し遂げたことと将軍による大政奉還案を考えたこと、
そして維新の曙を世に告げたという「五箇条の御誓文」、これの
元ネタである「船中八策」を作ったことでしょう。
犬猿の仲であった薩摩藩の西郷と長州藩の桂小五郎を
説き伏せ、二つの大藩に同盟関係を結ばせたことで、
幕府への対抗勢力が大きくなり討幕の気運が高まってきたわけです。
武力での革命を推し進める薩摩、長州グループに対し、
竜馬の土佐藩は無血革命、すなわち将軍に政権を返上させてしまう
大政奉還という案を推し進め、ついにこれを達成したわけです。
この物語のクライマックスはこの大政奉還の成就でした。
絶対無理と考えられていた政権返上、これに応じた十五代将軍慶喜も
見事な人物だなと思いました。
結果的に会津藩や桑名藩、新撰組などが抵抗したため戊辰戦争
が起こるわけですが・・。
作中で著者司馬遼太郎さんが書いていますが、幕府が倒れた後の
日本について明確なビジョンを持っていたのは幕末志士の中でも
坂本竜馬ひとりだけだったそうです。
薩摩が政権をとっていたら島津将軍を、長州は毛利将軍を作ってしまった
ことだろうと著者は書いています。つまり当時の名だたる革命家でさえ
旧態依然とした武家主義から抜けきっていなかったわけですね。
その中にあって坂本竜馬だけが異質で斬新でした。
竜馬は人民参加型の民主国家を日本に作ろうと考えていたのでした。
当時のあの時代にです。彼が幕末の奇跡と言われた所以です。
これには竜馬の師匠である勝海舟の影響が大きかったようです。
薩摩の西郷吉之助(隆盛)、大久保一蔵(利通)、長州の桂小五郎が藩において
要職を持ち、藩論をまとめ藩を動かし、藩の力を借りて革命を起こせたのに対し、
竜馬は母藩である土佐での身分はあまりにも低く、藩の中で行動することは
不可能でした。そのため竜馬は早々と藩に見切りをつけ脱藩、自ら亀山社中
(海援隊)という「会社」を作り、この組織をベースに活動していくわけです。
亀山社中は会社組織なので当然利益を追求します。この点でも「志」という精神性で
動いた他の革命家に対し、「実利」を持って世の中を動かす竜馬は非常に独創的な
発想の持ち主だったようです。
司馬遼太郎さんの「竜馬がゆく」は坂本竜馬というかつて日本に実在した
人物を主人公にした話です。竜馬の青春物語ですね。
作者は主人公の名を実在した「龍馬」ではなく
あくまで「竜馬」とし、区別しています。
竜馬の人柄を表すいろいろなエピソードが書かれています。
長文を書くと読まれなくなってしまうので(笑)、それらのエピソードを
詳しく紹介することはしませんが、明るくひょうひょうとした人間で、
実にかわいいキャラクターだったようです。
人に好かれ彼の周りには自然と人が集まってくる、そんな人物が竜馬です。
女性にも大変もてたみたいです。おそらく母性本能をくすぐるものを持っていた
のでしょうね。
「竜馬がゆく」は人生の指南書としても使える素晴らしい小説です。
また竜馬語録は人生の教訓としても役立つと思います。
「生きるも死ぬも、物の一表現にすぎぬ。いちいちかかずらわっておれるものか。
人間、事を成すか成さぬかだけを考えておればよいとおれは思うようになった」
「人の一生というのは、たかが五十年そこそこである。
いったん志を抱けば、この志にむかって事が進捗するような手段のみをとり、
いやしくも弱気を発してはいけない。たとえその目的が成就できなくても、
その目的への道中で死ぬべきだ。
生死は自然現象だからこれを計算に入れてはいけない」
竜馬は32歳の時に暗殺されましたが、この死さえも交通事故みたいな
ものだと司馬遼太郎さんも書いています。
竜馬の死生観は「事を成す」ということに尽きたわけです。
繰り返し読んでもあらたな発見がある、そんな物語です。